2017年12月5日火曜日

ビル・エヴァンスとLPコーナー

クラシックから完全にジャズに移り替えたのは、友達のIの家でビル・エヴァンスの「ポートレート・イン・ジャズ」を聞いてしまったからだ。
レコード盤に針を落とすと今まで聞いてきたバップとは全く違う音楽が始まった。
パウエルのドライブ感満載だがタッチは揃っていない演奏に比べて、あか抜けている。泥くささなんて少しもない。
眼鏡をかけ髪を7・3に分けた、まじめな経済学者みたいなジャケットと相まって、左手のブロックコードが絶妙なタイミングで入り、しかも右手のメロディーラインと絡まったり、ユニゾンしたり、なんというカッコよさ。もう、夢中になった。「枯葉」は最高だった。



ほしくてほしくて、Iにどこで買ったというと、今はどこにも売っていないという。
じゃあ、これを売ってくれと嘆願したが、Iも一番お気に入りだからダメと即座に断った。

私があまりにも残念という表情をしたからだろう、Iは輸入盤ならあるかもしれないと、後日、かなり遠くまで電車に乗って、大阪市内の路地にある「LPコーナー」という店に一緒に連れて行ってくれた。

初めて入る輸入盤の店。独特の匂いがした。
気もそぞろにジャズのコーナーに行き、ドキドキしながらLPの上部に手を入れ、一枚一枚ジャケットを引き上げると、目の前に愛しの顔が現れた。
「PORTRAIT IN JAZZ BILL EVANS TRIO」と書かれた写真の上には大きく「STEREO」と印刷されて、友達の家で見たものとは違っていたが、見つけた嬉しさに思わず大き声で「あった! あったよぅ!」と、別のところでレコードを見ていたIに声をかけると、田舎者丸出しの初心者に店内全員の目が注がれることを察知して、Iはさっと外に出てしまった。
そんな冷たい態度も全然気にならなかった。
が、ビニールに包まれたジャケットに張られた価格を見て、あっという間に天国から地獄に落とされた。9000円。もちろん手に入れることは不可能だった。
帰りはIとは無言の時を共有した。
幸いに、何か月たつとビクターから再販された。リバーサイドの版権の問題で一時期発売が中止されていたみたいだ。



北野田駅の長崎屋の小さなレコード屋しか知らない私と違って、Iは他にもマニアックなレコード店を知っていた。
心斎橋にあった「坂根楽器」。
とても貴重な盤がたくさんあるという。

行ってみると、狭苦しい小さな店だった。
兄ちゃんみたいなちょっとむさくるしい店員が、これは珍しいよ。幻の名盤中の名盤だ、高校生のお前たちにはとても買えないよと、レコード盤を手にとって私たちに見せてくれた。
いつも見るLPレコードより一回り小さいものだった。
ヘェーと目を皿のようにしてみていた私たちに、「一曲だけ聞かしてやろうか」というや否や、密封されたビニールをシャーッと破って、プレイヤーに置いた。
音が流れると、迫力あるピアノトリオのプレー。パウエルともエヴァンスとも違う。バップとも違う引きこまれるような何とも言えない演奏だった。
メリー・ルー・ウィリアムス、黒人の女性ピアニストだよ。と教えてくれた。


(メリー・ルーのどの盤かはわからない)

その一曲だけで、満足するほどいい演奏だった。
ビニールの封をきってしまったら中古品になってしまうのかなぁ、気にしないあの人はすごいねと、妙なところに感心しながらIと家路についた。

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