2017年12月9日土曜日

偶然の電話

"「死に至る病」と沈黙"を書いているとき、携帯が鳴った。
大阪のUからだった。

Uとは学生時代は一緒に暮らしたこともあった。映画などに出掛けると、必ず途中でどこかに消えてしまう。
だれからも束縛されたくないんだ、それができる強さが羨ましかった。

Uはたまに思い出したように、「元気してるか」とかけてきた。
元々、筆ならぬ、電話不精の私は普段からあまりかけない。
まして、電話は束縛しているみたいなので、こちらからかけることはほとんどなかった。

阪神・淡路大震災の時は、「オレのところは大丈夫やで」と夜の10時過ぎに会社に電話があった。
「何があった?」と聞くと「なんや、知らへんのか」とすぐにテレビをつけるとその凄まじさに愕然とした。
仕事に没頭していて、朝から地震の報道で溢れ返っていることを全く知らなかった。

Uは足場機材の会社の取締役で、全国を飛び回っていたが、早期退職してタイ料理の店を開いていた。
5年前にその店で会ったのが最後だ。
駅近くの小さな店だった。家庭的な雰囲気に、客とも楽しそうに会話を交わし合うオーナー兼ウエイターの姿がはまっていた。
やりたいことを貫いて昔と変わっていない。なかなかできることではない。
しばらく会わないうちに距離が開き過ぎたことを感じた。


今年の7月に久しぶりにUから連絡があった。
大腸がんが見つかり、それもステージⅣ。
医師からは余命3ケ月と告げられたが、治療がうまくいってなんとか生き延びた。
という話だった。
店はどうなったかと聞くと、人に譲ったという。


今日の電話は、「死」について綴っていた時、Uはどうなっているのかなと、ふと思った時だったので本当に驚いた。

真っ先にガンの経過を尋ねると、つい最近、検査したら転移もなく、すべて消えているとのこと。ああ、良かった。
要件は、もう一人学生時代同じ屋根の下にいたM君が、私にも会いたいとの内容だった。8人子どもがいるという。
「そんなの簡単、簡単」が口癖の楽天家で、いつもニコニコしていたM君だが、前の奥さんは5人目の子どもを産んだ時、その命と引き換えに亡くなった。再婚したという。
みんな会わぬ間に、それぞれ波乱の人生を歩んでいる。

Uに会ってから後、私も、今までないような経験をいくつもした。
そのおかげで見えてなかったものが少し見えてきた。
私より先のものを見ていたUと長時間、久しぶりに話がはずんだ。
学生時代とは別の意味で、距離が縮まった気がする。
今度は、こちらから連絡をとってみよう。

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