最初のカセット・テープ・レコーダーは中学の入学祝に親から買ってもらった。
電気屋がナショナルのカセット・レコーダーをラジオがついたものか、つかないもの、どちらがいいですかと2台持ってきた。
ラジカセ(ラジオ付きカセット・レコーダー)の出始めも出始め。ラジオ付きはほとんどなく、値段もかなり高かったが、ラジオも録音できると聞いて、どうしてもとラジカセをねだった。
検索するとニッポンラジカセ大図鑑という本があった。kindle版もあり、プライム会員はタダだった。一番最初に取り上げられていて、様々な記憶が蘇ってきた。
ナショナルの日本で最初のラジオカセットで型番はRQ-231。価格は35800円。よくこんな高いもの買ってくれたなあ。両親に感謝。
使ってみると、その商品、再生も巻き戻しや先送りも同じ四角い操作ツマミ。音を鳴らすたびにガチャンとヘッドをおろすたびにかなりの力を要した。
さらに巻き戻しや先送りの際、ずっと右や左に四角いツマミを親指で固定しなくてはならなかった。巻き戻しスピードもおそかったので、これには辟易した。
そんなラジカセでも持っていることは自慢だったが、最先端のものは後から追いかけてくるものにあっという間に抜かれてしまう。
中学3年になるとみんなラジカセを持っていた。しかも、巻き戻しや先送りはそれぞれボタンがあり、終わると自動的に上がり、カシャンと止まる。
そんなのがほしかったが、壊れるまで使えと買ってくれなかった。
中学生なのでテープを買う金もなく、購入時についていたバッキー白片の演奏テープで、和泉雅子と山内賢の「二人の銀座」と「サン・トワ・マミー」と「エル・チョクロ」ばかり聞いていた。
聞きすぎてテープが切れた。
横のカセットのフタの出し入れレバーが折れてしまったので、新しいの買ってくれと頼むと、まだ、音はなるだろうと拒否された。しかたなく、レバーをはずして、マイナスドライバーを突っ込んで回してはカセットの出し入れをした。
4年間、この手動カセットは生き続けた。原始的なメカの方が長持ちするようだ。
やっと、次のカセット・レコーダーを買ってもらえた。今度はソニーのCF-1600。ずいぶん軽い。操作ボタンもたくさんある。
団地のビラ配りのバイトも始めたので、カセットテープも買えた。
レコードから直接ダビングなどできなかったので、主にFMからエアチェックをしていた。
その頃は、「FM Fan」と「週刊FM」というFM専門雑誌があった。のちに「FMレコパル」というちょっとポップな感じの雑誌も発刊された。
中学の時、近所のおばちゃんからもらったジョージ・セルの「白鳥の湖」とワルターの「運命・未完成」の超定番レコードでクラシックにはまっていたので、どちらかというと「FM Fan」を買うことが多かった。クラシックの逸話の連載は切り抜いていた。長岡鉄男さんのオーディオテストも載っていたような気がする。
タイマーなどなかった。FMの週刊番組表を入念にチェックして、その時間になると、なぜか息を止めてボチッとボタンを押す。番組は2時間あったと思うが、120分テープは片面60分。リピート機能などなかったので、片面終わると取り出し、ひっくり返して、また入れる。その間に曲が途切れてしまう。その時に限っていい旋律だったりするのでストレスが倍増した。
ジャズ番組は「アスペクト・イン・ジャズ」。
聞き漏らさなかった。毎週火曜日の夜中にジェリー・マリガンの「プレリュード・イン・マイナー」で始まる。聞き始めのころは田中穂蓄(ほずみ)という心地よい声のアナウンサーが担当していた。
しばらくして「こんばんは、油井正一です」というしわがれた、ヒキガエルのような声に突然変わった。「なんや、おっちゃんやんか、年寄り臭くてやな感じやな」と思っていた。
が、聞いていくうちに、ただ曲をかけるだけではなく、ジャズの歴史からミュージンャンの裏話、最新情報まで、前とは全然違う深い内容の番組になっていった。
ジャズに誘い込んだIに聞くと、油井正一さんはすごいジャズ評論家の大御所だと教えてくれた。
ヒキガエルが大好きになった。
「アスペクト~」とは別に、日曜の夜、いソノてルヲさんのラジオ番組があった。
Iが、「オレのリクエストが必ずかかるから」今晩聞けと言う。いソノさんが「いい趣味ですね」と言って、本当にレスター・ヤングの「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス」がかかった。
「なっ、言った通りだろう。いソノさん、こんなの大好きだから」と平然と言った。
大人だなぁ。こいつにはかなわない。
心斎橋のヤマハの書籍コーナーに行った。ハデな赤いカバーの「ジャズの歴史物語 油井正一」の背表紙が目に入り、そこだけが光ってみえた。油井さん著のジャズのバイブルだ。昭和47(1972)年12月に発刊されたばかりのものだった。450ページもあり、当時1200円。
のちに望まれて2009年に再販されたが、赤いカバーではなかった。3000円になっていた。
この本は生きてきた中で一番読み込んだ。授業中でも教科書の影に隠しながら読みまくった。
ジャズ・ミュージジャンは、初めてレコードを買ったバド・パウエルとセンセーショナルなアルバム「リターン・トゥ・フォーエバー」を出したチック・コリアぐらいしか知らなかったが、「ジャズの歴史物語」の最後に記載されているミュージシャンの索引に「アスペクト・イン・ジャズ」を聴くたび、チェックをつけて覚えていった。
「アスペクト・イン・ジャズ」は深夜の1時に始まり3時まで。テープはどんどん増え、索引のチェックも増えるにつれ、授業中の居眠りも増え、テストの点だけが減っていった。
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